Kesennuma

2025.09.23
海が教えてくれる vol.7 〜藤田製凾店〜

 

8月10日に解禁されたサンマ漁が、近年にない豊漁!気仙沼市内のお魚屋さんには、脂が乗った大ぶりのサンマが入った発泡スチロールが積み上げられています。

今回お話しを伺うのは、海産物の運搬・輸送に欠かせない発泡スチロールを取り扱う藤田製凾店 専務の藤田一平さん。発泡スチロールの魚箱について、また製凾店という家業の施設を活かした取り組みなどお聞きしました。実は一平さん、育美の同級生です。

 

■産地から消費者へ届けるための必需品

育美 本当に今更ですが、改めて藤田製凾(せいかん)店さんの主な業務を教えていただいていいですか?

 

藤田 包装資材の販売をしています。包装に必要なテープや袋、シート、生活資材のゴミ袋やお肉屋さんやスーパーのトレイなど、いろいろ手広く取り扱っています。その中でも漁業資材の発泡スチロールがメインの商材で、港町には欠かせない仕事です。

 

農水産物の容器としてお馴染みの発泡スチロールですが、そのほかにも家電製品運送の際などの緩衝材、建材として外張断熱材など、発泡スチロールは身近な存在。表面の丸い発泡ビーズの模様が特徴で、この小さな空気の部屋が熱を伝えにくくし、保冷性と鮮度保持を両立。そして軽くて、なおかつ水漏れしないという特性もあり、農水産物の輸送に欠かせない梱包材です。なんと製品の98%を空気で構成。原料のポリエチレンの重量は、わずか2%。溶かせば再生可能なので、リサイクルにも優れています。

 

育美 『海が教えてくれる』で廻船問屋の小野建商店の小野寺さんにインタビューさせてもらった時に、気仙沼は獲れた魚に合わせて発泡スチロールの魚箱を細かく用意してるんだよって聞いたんだけど、そうなんですか?

 

藤田 そうだね。魚種だけではなく、大きさも細かく分類しているんです。かつおを例に挙げると、水揚げされた魚は8種類のサイズに分類され、1.3キロ以下の小小、1.3キロから1.7キロの小、1.8キロから2.4キロの中小、2.5キロから3キロの中、3.1キロから4キロの大、4.1キロから6キロの特大、6.1キロから8キロの特大2号、その上の特大3号まで。選別した魚を、効率よく発送できるように箱を提供しています。

 

 

発泡スチロールのサイズを細かく分けているのは、魚の大きさに合わせることはもちろんのこと、出荷の際に魚を入れる数が状況や出荷先に応じて日々変わるからです。また輸送コストにも関わってくることもあります。例えば箱が1センチ低かったら、もう1段積めたり、幅が1センチ短ければ、もう一列入ることもあります。必要最小限になるように考慮し、輸送コストが上がる消費者に届く際の価格に反映されてしまうので、なるべく低いコストで出荷できるように提案しています。

 

育美 輸送のことまで考えてるなんて!丁寧なお仕事!かつおだけでたくさんの種類があるって言ってたけど、魚箱の在庫って、かなり気を使うんじゃない?

 

藤田 そりゃ、当然。魚箱がないと出荷できないから、函屋は絶対切らしちゃいけない。うちは、一回も切らしたことはない。どんな量でも、どんなサイズでも。それは、函屋としての矜持だよね。

 

育美 おおお、素晴らしい!すごいですね。

 

藤田 凾屋は魚がある時にしか動かないので、6月から11月までの半年間に箱の出荷が集中します。通常の企業なら年間通じてベースになる商品があるのが理想なんだろうけど、かつおやサンマは時期が集中しているので取り扱いには特に気を付けています。

今年はサンマもすごい豊漁って聞いてるだろうけど、下手すると、今月来月で去年1年を上回るんじゃないかっていうぐらい。ニュースでも見たと思うけど北海道では今、水揚げに対して発泡スチロールがなくて出荷が従来通りできないような状況。だからお客さんからは、「絶対切らさないでくれよ」と言われているんです。

 

鮮度が命の、海産物。発泡スチロールは、産地のものをしっかりと消費者に届けるために欠かせません。

 

■家業を継ぐ。スタートはマイナスから

育美 次は、一平くんに迫っていきたいと思います。気仙沼に戻ってきたのは震災直前だよね?震災から現在まで水産業を支える仕事に携わる意識や意義、一旦外の世界を経験してきた一平くんだからこそ気仙沼をどのように捉えているのか教えて欲しいな。

 

藤田 6人兄弟の長男だけど、跡を継げって言われたことはない。けど、20歳ぐらいの時には、前向きに俺が継ぐべきだとは思っていて、3年で気仙沼に戻る約束で外に出ていました。2011年1月に気仙沼に戻ってきた時には家を継ぐことになるから、よし頑張るぞって感じでしかなかったんだけど、1月2月って凾屋は暇なんです。帰ってきて、お客様に挨拶回りをしたり、会合に出たりしていた時期に震災がきたので、自分がこれをやるぞっていうより、やらなきゃいけない状況に追い込まれたスタートでした。

うちは家も職場も同じ場所だったので、同時に何もなくなって本当にマイナスからのスタート。でも魚市場が6月にカツオの水揚げするぞと決めて、そこに向かってみんなで頑張ろうとなったんです。あの時は、目の前のことをやることにただただ必死でした。

 

育美 あの時はこれからどうすっぺ?って、夜な夜な、語り合ってたもんね。みんな頭にタオル巻いて、目の前のことからひとつひとつ。

 

 

藤田 いろんな人からご支援をいただいていたから、まずは自分の足でちゃんと立てるようになるのが一番の恩返しだと思っていました。被災地や被災者って何年も言われてるのが、俺はすごく嫌だった。もう自分たちで出来るから大丈夫、次は俺たちが助ける番だぐらいの気持ちでいました。必死でしたが、その中でだんだん地域のことも考えられるようになっていきました。

 

育美 海と生きる 気仙沼”の水産業に携わって、また一旦、地元を離れ外の世界を経験した中で見える世界、気仙沼をどう捉えているの?

 

藤田 東京ではまったく畑違いの仕事だったから水産業に触れる機会はありませんでしたが、当時は魚を食べるたびに気仙沼の良さをひしひしと感じていました。改めて気仙沼って人も資源も豊かな地域だと思います。

 

 

みんな気仙沼好きっていうじゃない? でも俺は、気仙沼のここがいいあそこがいいっていうことではなくて、気仙沼を好きなのはそこに住む人たちと自分の生まれ故郷だからって気持ちが大きい。例えば、仙台生まれなら仙台が好きで仙台のために何かしようと思ってたと思うし、大船渡で生まれてたら大船渡を好きだと思うだろうし……。

気仙沼は、自分を育ててもらった町だから、いろんな人に面倒を見てもらって伝えてきてもらったから、自分たちが今度は返す番。でも、その人たちに返すのではなくて、次の世代に繋げる意識をずっと思っています。

 

■高く、ジャンプ

育美 さっき、在庫を切らしたことがないって言ってたけど、凾屋さんの倉庫って、発泡スチロールを積み上げてるからすごく天井が高い。それで、トランポリンを始めたんだよね。 開業してから、7−8年になるかな?

 

藤田 開業したのは2018年。構想段階で無料解放したのは、2015年ぐらいかな。会社の課題と地域の課題がそれぞれあって、会社の課題は冬はすごい暇で人も資材も余ってる状況。地域の課題の1位は交通の便、2位は医療施設の充実、3位が体を動かして遊ぶ場所がないという課題が、地方創生アンケートで出たんです。それまでも体感としてはあったけど、アンケートで改めて結果として出た。そこで、この二つ合わせて考えてみようと思って、倉庫で冬の期間だけ体を動かせる場所をやってみようと始めました。

 

育美 トランポリンというアイデアはどこから?

 

藤田 最初は、この周りは住宅を建てることができないから、音を気にしなくて良いスタジオにしようとか、高さもあるし当時は流行ってたボルダリングは?という意見もあったんです。だけど、なんかピンと来なくて……。社内で話している時に、うちの母が「トランポリンは?」って……。

 

育美 なんと、お母さんの発案!?

 

藤田 トランポリン?って思ったけど、頭から否定するのもって、仙台にやりに行ったら面白かった。けど、そこは天井まで6メートルしかなくて、俺が高く飛んだら天井に当たりそうになる。うちの倉庫は高さもあるので、気にせずジャンプできる。まったく畑違いなんだけど、やってみようと。

 

 

育美 利用者の方は、どんな反応でした?

 

藤田 とても喜んでもらっています。お客様から「ずっと続けてほしい!」との声を受けて今では通年営業になりました。気仙沼は自然が豊かだし、俺も外遊びで育った人間なので外で遊んでほしいと思ってたんです。けれど、子どもが体を動かして遊べる場所がないという中に、屋内でっていうのが含まれているんです。屋内は、雨や風、寒い日とかに遊べたらいいのかなと思ってたんですけどそれだけではなくて……。

去年ホームステイでラスベガスの子を受け入れたんだけど、あっちだと気温が40度超えちゃうから外で遊ぶ人はいないって言うんです。日本でも危険な気温だとか天気予報でも言うようになって、気候的にはだんだんそうなってきてるのかなって思っています。子どものことはもちろん、親の身体的にもみんなが必要としていたものだったり、社会的な環境がそれを求めているところに合致したんだと思います。だから、トランポリンをしている人だけではなくて、待っている家族が余暇の時間を快適に過ごせる場所になればと施設設計を考えています。

 

■次の世代へ、“恩送り”

育美 未来への野望、展望など最後に聞かせてください。一平くんを見てると、会社だけではなくて、広い視野で物事を見てるように感じるんだけど、どう?

 

藤田 自分のことだけ考えたら絶対に町がよくなることなんてなくて、一人ひとりが何かひとつ、地域のことをやってればそれだけでいい町だと思う。

先輩たちにお世話になった恩を返す“恩送り”って、お世話になった人に返すんじゃなくて、次の世代、未来のためにどうしたらいいかってことをベースに考えないといけないと思う。下に伝えていくことで、それを上の人たちにも良しとしてもらう形が一番美しいのかなって。気仙沼が、次の世代のことを考えてあげられる町になればいいなと思います。

 

育美 私たちも40代なって、先輩達から学んできた“気仙沼マインド”を自然と引き継いでることもたくさんあると思う。一平くんのことは昔から知ってるけど、当時からリーダー気質。真面目な一面もあったし、昔から自分の背中で見せていくタイプだよね。でも、なんか眉間に皺寄せてたというか。今は、顔つきは柔らかくなった(笑)。

 

藤田 背伸びせずに、やり続けるぐらいしかできないから(笑)

 

一平さんと、実父で藤田製凾店社長の藤田秀一郎さん。
後ろの木箱はマカジキの一本入れ用。社長が自ら製作しています。

 

先輩たちから引き継いだものを、震災時に支援していただいた“恩”を、ただ返すのではなく、次の世代へ……。

“海と生きる 気仙沼”になくてはならない凾屋さんはこれからも、世代間の緩衝材として、いきいきとした温度感を保ったままに……。

 

写真/スタジオアート

構成・文/藤川典良

参考/JEPSA INFORMATION(発泡スチロール協会)

 

 

※箱と凾(函)の違いって?

ところで、藤田製凾店の“凾”の漢字。社名の凾は、函の異体字です。文中では、社名と“ハコや”には凾を使用しましたが、ハコ単体の時には、わかりやすいよう一般的に物を入れる容器の“箱”の字を使用しました。

“凾(函)”は物を保護する目的や差し込み式など、限定的な使用や特殊な形状のハコを指します。そういえば、手紙やハガキを送る“限定的な使用の特殊な形状”のポストに入れることを、投函(とうかん)と言いますね。

 


気仙沼あそび場ランキング6年連続1位

<トランポリンパーク F-BOX>

 

大人も子どもも楽しめるF-BOXは、トランポリンは7面、東北最大のトランポリンウォールやフリードロップエリアも完備。2019年から通年営業、春休みやGW、夏休みや年末年始は特別営業。

予約はHPから。https://f-box.co

気仙沼市弁天町1−7−27

 


【追告】

気仙沼市 カムチャツカ半島地震による津波被害で支援

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詳細は、https://www.kesennuma.miyagi.jp/sec/s074/R7GCF.html

 

 

 

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