Kesennuma

居心地のいい空間 vol.1

大船渡線の終着駅・気仙沼駅から気仙沼街道を歩くこと数分、大船渡線を越えたカーブ沿いにその小さな店はあります。

2階建ての小さな建物。白い壁と丸く可愛らしいポーチライト。

入っておいでと囁きかけているようなアンティークドア。

“どこでもドア”じゃないけれど、扉を開けるとそこには外界を隔てたような

独特な時間が流れています。

<日用品と喫茶 ハチワレ堂>―、それがこのお店の名前です。

 

■2011年3月11日14時46分

スマートフォンに残る1枚の写真。

13年前、笑顔で写る綾美さんと熊谷育美の2ショット。

 

 

この写真を撮っているとき、「地球に何かが衝突したと思った」ほどの衝撃と、

大地が歪んで見えるような大きな揺れが東北地方を襲いました。

この日、熊谷育美はサンドウィッチマンさんとロケ番組で気仙沼に来ていました。

当時、<海の市>前にあったカフェ・アンカーコーヒープレミアム店でのロケを終え、サンドウィッチマンさんとは別れ、

コーヒーショップの前でアンカーコーヒーで働いていた綾美さんと記念撮影をしている、 

まさにそのときに東日本大震災が起きたのです。

 

「道路から水が噴き出し、地割れがして……。その後、まさかお店がなくなってしまうなんて考えてもいないので、レジのお金を出したり、あちこち全部の鍵を閉めていました」

 

綾美さんは、車で来ていたスタッフと「一緒に車で逃げよう」「いや、大丈夫。歩いて帰れるから」と、そのやりとりを何度か繰り返しましたが、「津波が来るから、早く」と強引に車に乗せられました。

向かったのは、すぐ近くの高台。

 

しかし、信号が止まったままの道路は渋滞し、立ち往生した車は一向に進みませんでした。

けれど運よく同じコーヒ―ショップで働く同僚の車が通りかかり、行く道をあけ通してくれたのです。

ようやく高台に逃げ、近くの市民会館から海の方角を見ると、そこには見る影もない、気仙沼の姿がありました。

 

「あのまま歩いて帰っていたら、と思うと……。あの時、道を開けてくれたスタッフとはしばらく連絡が取れなくて、どうしたのかって気になって。でも、後で無事だとわかりホッとしました」

 

■人が集まる場所を

震災後何年か経ってもなぜか、311が近づくと市内で偶然、綾美さんと育美はバッタリ出会うことが多かったといいます。

たまたまでしょうけれど、二人は何か不思議な力を感じていました。

そのころ仕事を辞め、気になること、やってみたいことを積極的にしつつ、“自分の気持ちに嘘をつかないこと”を大切に生活しはじめた綾美さん。

 

「自分で何をしたいとか自分が好きなものもよく分からなくて、何かを始めても長く続けられなくてずっとモヤモヤして……」

 

“やってみたいことは多いけれど飽きっぽい性格”と自己分析していました。

「でも、カフェでの仕事はどうして飽きずに楽しく7年もの間働けたのかなと、ちょっと自分のことを考えた時がありました。

毎日違うお客様が来て何気ない会話を楽しみ、毎日いろんな出来事も起きて、自分で作ったドリンクをお渡しすると喜んでもらえる。

そのやり取りは “飽きないんだ” “好きな事なんだ” と気づけました」

 

予定も何もない自由な時間には、雑貨やインテリアのことが載った本やS N Sを何時間でも見ていられるということに気が付きました。

これだったら、生活の一部として続けられるかもしれないと。

 

「いつかは自分のお店をもちたい」

 

当時、何度も何度も読んだエッセー本。おばあちゃんのお家のグラスや小皿、小箱は今でも宝物です

 

漠然と考えていたことはありましたが、ただ何となく“50代くらいになって生活が落ち着いたらかな~”とか、インテリアや雑貨のブランドに詳しいわけでもなく、お店をやるとなるといろいろな情報を持っていて完璧な人じゃないとできないし、お客様から信頼してもらえないのでは? という思いもあり、綾美さんは自分にはできないと理由をつけて諦めようとしていました。

 

そんな時に綾美さんが思い出したのは、震災後にボランティア活動の一環として絵を描くワークショップを開催してくれていた小池アミイゴさんの言葉でした。

『絵を描くときに自分がすごく上手い絵を描いたところで、世界は1mmも変わらないんだよ』

 

「私が完璧なお店をやったところで別に世界は何も変わらないし、ちょっと抜けていても大丈夫なんじゃないか、と思えるようになりました。

ぼんやりと人が集まるような場所を作りたいと考えていたりもしましたが、でもその時はまだ、急に自分のお店を持つことになるとは思っていませんでした」

 

 

育美 綾美ちゃんと改めて当時を振り返ってみると、考えさせられることがたくさんあります。

忘れられるわけがないあの日の出来事を「忘れることも大切」だとこの歳月が教えてくれたんだけど。

時々に思い出しながら意識をもって、いざというときにちゃんと行動できる自分で在りたいと切に思います。

あの日の私は、恐怖のあまりどこかふわふわしている感じだったから。

昨年、やっと防災士の勉強をする時間をもてたことも大きかったな。

 

Vol.2に続く・・・

 

構成・文/ 藤川典良

 


お店紹介

ハチワレとは、、、

ハチワレは猫の模様のことで、以前綾美さんが飼っていた猫もハチワレでした。

昔は鉢が割れることを連想したり、頭が割れているように見えることから縁起が悪くて産まれたそばから捨てられていたそうですが、現在は末広がりで縁起がいいので福猫とされているんだとか。

お店のディスプレイで使用している家具の一部やカウンター板、看板等は元々捨てられる運命だったものを譲っていただき使用しているそうです。

 

日用品と喫茶 ハチワレ堂

住所:宮城県気仙沼市古町4丁目1-34

営業時間:11時〜16時(日曜、祝日は時短営業の場合がございます。)

定休日:火曜と水曜

Instagram https://www.instagram.com/8waredou/