Kesennuma

<Ubgoe>が、産声を上げる瞬間

熊谷育美Web Siteリニューアルに伴い、登場した「気仙沼とわたし」。育美自身の視点で語る音楽や気仙沼での暮らしのあれこれや、彼女がインタビュアーとなって地元・気仙沼や東北の気になるヒト、モノ、コトを取り上げていきます。

 

SNSでも既に発表しているように、新しく熊谷育美のブランド<Ubgoe>が誕生しました。Tシャツなどのアーティストグッズのほかに、今後は気仙沼で生まれた素晴らしい品々ともコラボレーションして、気仙沼をいろんな人たちに知ってほしいとスタート。その思いを形にしてくれるに違いないデザイナーが、気仙沼在住の鈴木歩さんです。<Ubgoe>が文字通り産声を上げる瞬間を、鈴木歩さんとの対談でお届けします。

 

 

<気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ> にて

 

 

■言葉から生まれるデザイン

育美 歩さんとの最初の打ち合わせは、今年(2021年)2月13日の気仙沼湾横断橋のウォーキングツアー終了後、アンカーコーヒー内湾店でしたね。その時にはまだ名前もイメージも決まっていなくて、本当にゼロの状態から入っていただきました。すごく印象的だったのは、「なんでも思いついた言葉を全部言ってください」って。デザインって、そんなところからつくっていくんだと、ビックリして……。

 育美さんの音楽には、声や言葉の強さがあります。だからまずは、育美さんが思い描く気仙沼のイメージを、言葉で共有しておきたいなと思いました。その中には、鍵盤や音符というのもあったけど、音符だけって感じでもないんだよな、とか。

育美 ナチュラル、母なる海、波、風、シンプル、モノトーン……思いつくままに。私の曲『月恋歌』に、<心と心が丸く重なれば 優しくなれることを知った>という歌詞があって、角があるのではなく、丸く、優しくなれる世界がいいな〜、といったニュアンスだとか。単語を羅列していくその中に、“うぶごえ”もあったと思います。気仙沼は、自然体の自分でいられる、ここで全部が生まれているという話もしましたね。

 根本にあったのは、気仙沼への愛。うぶごえという言葉が、それまでに出てきたキーワード全部を包み込むような印象がありました。

育美 その後は、ローマ字を大文字にしてみたり、uを入れるかどうかで悩んだり、それじゃウブゴーって読んじゃうと言われて、アクセントになる記号付け足したり 笑。

 

 

 

 

■気仙沼をカタチに

 うぶごえというフレーズと、気仙沼の海や山、自然体などいろんな羅列した言葉から、丸い中に曲線が描かれたロゴの形になりました。

育美 海にも山にも見えるし、生まれるという根源のような地球にも生命のようにも見える。ロゴが出来た時は、本当に感激。自分の思いが形になって、なんとも言えない気持ちでした。歩さんと一緒に言葉を紡いで生まれた、ブランドネームとロゴデザインです。

 気仙沼という場所を、具体的に落とし込んでいけたらいいなって。原点に帰ると、自分の中でも安波山から気仙沼を眺めるというのがあって、安波山の等高線が少しでもモチーフに反映されてロゴに馴染んだらいいなと思いました。緩やかな曲線を、ただイメージで描くよりも、もう少し具現化した等高線をモチーフにしたほうが意味はありますし……。

育美 歩さんのその発想ってすごい! 確かによく見ると本当に気仙沼湾だって、驚きました。

 

 

安波山から気仙沼内湾を望む。 遠くに気仙沼大島大橋(通称:鶴亀大橋)、手前に 気仙沼湾横断橋(通称:かなえおおはし)が見えます

 

 

 ロゴを最終確定するまでに育美さんのLIVEにお邪魔しました。6月に行われた舞踏家のATUSHIさんや写真家のKIKIさん、太鼓のAtoa.さんらと育美さんのライブ『島風光』は衝撃的でした。いつものように育美さんの音楽を聴くだけじゃなくて、即興的で自由度の高いコンテンポラリー音楽の中で、声って本当にすごいなと、あの時に感じました。

 

 

『島風光』宮城2Days (2021年6月12日 於:気仙沼市民会館 中ホール)  舞踏との即興による演奏で、自身の新境地を拓きました

 

人間から出るナチュラルなそのままの声でその場の空気を創りあげていく演出が、芸術的だなと。有機的な曲線で自然な柔らかいイメージにしていきたいなというのは、あのLIVEの印象が大きいですね。

育美 その時ですね、極力シンプルな形にしようと。いろんな意味が詰まっているんだけど、スッキリした芯のあるデザインにしていただきました。

 

デザインと音楽。制作過程の共通点に話題は尽きません

 

■デザインと音楽と

育美 私も曲をつくる立場として、デザインと音楽ってすごく似ているなと思ったんです。

 制作するときは、無の状態ですね。考えている時間だけは邪魔されたくなくて。邪魔されないところでやれるのは、ここ(頭の中)でしかない。

育美 そう、ここ(頭の中)ですよね、私も。すべてのことをシャットアウトしないとできない 笑。

 シャットアウトして、ゾーンにはいる瞬間があるじゃないですか。ゾーンに入る瞬間にブワーッて繋ぎ合わせて、ガーッと一気に作り上げていく。擬音ばかりですみません 笑。

育美 そうそう、わかります!キターッ!ていう瞬間。

 デザインも曲づくりも同じなんですね。

育美 頭と心と体から生み出していくんですね

 ロゴができると、人格を持ってきます。まさに子どもを育てていくような。

育美 人生の中でも初めて、本当に素晴らしいロゴをつくっていただきました。これからずっと大切にしていきたいし、このブランドと共に自分自身も成長していける存在になりたいなと思います。ここからも、いろんな展開をしていけたらいいな。

 

話はいつの間にか子育て談義に 笑 手前でカメラを構えているのは、歩さんの制作会社スタッフの太郎くん。Tシャツ試作品制作では大活躍してくれました。震災後に気仙沼に移住。そうした若い人たちが気仙沼にはたくさんいます。また、機会をみて彼ら彼女らもご紹介します。

 

■対談を終えて■

デザイナーさんのお仕事ってすごい! 私の心の中を表現してくださいました。歩さんのお人柄もとても素敵で、お仕事されている姿もかっこよかったです。ゼロからモノを産み出すクリエイターであり、キャリアウーマンで、アシスタントさんのこともすごく大切にされている様子も。そして母の顔。なんというか・・・つい、姉御!と頼りたくなってしまうんですよね。歩さんの包容力、これぞ、港町・気仙沼の女!って感じなんです。

 

 

 

Profile: 鈴木歩(すずき あゆみ)さん

気仙沼市唐桑地区出身。1980年生まれ。仙台の高校へ進学後、デザイナーを志して上京。ファッション雑貨などのデザインを数多く手がけて10年間は東京での暮らしにどっぷりと浸かる。しかし、東日本大震災でモノが流されていくのを目の当たりにし、自分は誰を幸せにしたくて何のデザインをしていたんだろうと思い、2013年にUターン。地元で何か一緒にモノづくりやアウトプットのお手伝いをやりたいと、現在は<アンカーコーヒー>やクラフトビール<BLACK TIDE BREWING>等をはじめ、商品パッケージやWEBデザインなどを手掛けている。

「ここ(気仙沼)で生きていることが心地よい。そう思える環境で、仕事も子育てもできることが本当にありがたいです」

 

【 Ubgoe ネットショップ】
https://ubgoe-kumagaiikumi.stores.jp

 

構成・文:藤川典良  撮影:熊谷和記(Studio Art)、皆川太郎(pensea)