Kesennuma

木と暮らす〜港町で育む、木工品のぬくもり〜

気仙沼は港町として栄え、漁師をはじめ、魚市場、仲買人、製氷、製函、水産加工、造船、漁撈機械、水産物輸出入、漁具・船具などなど、海産に関わる仕事が盛り沢山な「海と生きる」まちです。

 

海のイメージが色濃い気仙沼ですが、市の総面積の約72%(※1)は林野。つまり、森林と野原が占めています。

森林の養分が河川を通じて、海へと流れ出る。豊かな森林が、豊かな海を、豊かな海産物を育んでいるのです。

 

「海と生きる」には、木は欠かすことができません。

木工品で海と山をつなぐ、<リアスウッドラボ・気仙沼>の小柳元樹さんの工房を訪ねました。

 

微妙なラインは南京鉋(なんきんかんな)で

 

■体験からしか学べない

育美 元樹さんが作られたスプーンやバターナイフを私も持っていて、手作りの木工品の温かさがすごく好きで、いつかはゆっくりお話ししたいと思っていました。

それにしても、すごい手工具の数!

元樹 手作業で効率を上げるために、長いものを削る時には接地面が長く広いほど精度が上がるので、大きな鉋(かんな)を使います。でも、小さな木工品の造形によく使うのは南京鉋(なんきんかんな)です。

コントロールがしやすく、0.05ミリぐらいの細かい微調整ができます。

粗さがなく、美しいラインが出るのでよく使います。

育美 ほんと! でも削れているのかどうか分からないぐらい。

元樹 0.何ミリのラインを調整して、微妙な部分を表現しやすいんです。

最後は結局、“ひとつひとつ違うけど、全部いい”というもの、を目指しています。

均一ではなく、全部可愛いものを。

 

育美 つくる工程としては、切った木をどんどん小さくしていく感じですか?

元樹 1本の原木から木の性質を考えて<木取り>をし、自分で乾燥させるところから。

乾燥させることはすごく大事で、冬に切ったものをできるだけ風通しの良い日陰に置き乾燥させるようにと心がけています。

木は自然物なので、体験からしか学べないことが多いです。

たくさん失敗もして、やっぱりあれが問題だったんだと、確かめていくことの繰り返しですね。

 

 

■手づくりの楽しさ

育美 元樹さんは長崎県出身で、京都で建築のお仕事されていたんですよね。気仙沼にいらっしゃったのはどうして?

元樹 北海道から東北を巡る一人旅の途中で、東日本大震災に遭いました。

僕は震災を体験して、コントロールできない自然の力とぶつかった時に建築物が無価値になって……。

それを造る行為に、震災復興の支援活動に関わるなかで疑問を持ちモチベーションがすごく下がってしまったんです。

もちろん、震災に負けない町づくりに関わる建築も大切だと思います。

震災では多くの方がたくさんのものを失いました。

でも、とても小さな、お金に変えられない思い出の詰まった価値のあるものを、僕は作ることをやりたい、ものを使ったコミュニケーションをと考えて、木工をやり始めました。

 

 

育美 私は作詞作曲をして歌を歌って、音を造るエンジニアさんがいて、楽曲を完成・発表するまでにたくさんの人が関わるんですけど、小柳さんの木工品のものづくりは全部一人。

元樹 つくるのは基本一人ですね。それでも知り合いの木工家や美術家などから本当に困ったら技術指導やアドバイスはいただいていますし、木材も林業関係者から分けてもらったりしてます。

機械加工中心の量産も悪くはないですけど、僕としては自分の手を動かして作ることが楽しいので、その楽しさを残しつつどうにかして現代に繋げていける方法がないかを考えています。

音楽も、今では歌わなくても声って作れちゃうけど、人が歌わなくなることはないと思うんです。

それと一緒で、木工品も機械で全部作れちゃうけど、手で削って作って生活を豊かにする仕組みや活動に僕も関わっていきたいなと思います。

育美 私も音楽を作ることがすごく大好きで、レコーディングまでの過程が好きなんです。

作詞作曲では、誰にも見せられない地味な作業を何日もかけてやって、とても人様に見せられない(笑)。

音に乗せられる表現も限られるので、自分のイメージを詞の中で、どう削ぎ落としていくか。

鉋で削るじゃないですけど、語りすぎずにいい表現ができないか模索しています。

元樹 凄く腕の良いものづくりの職人はデザイナーに限りなく近い感性を持っています。どちらを主体的に考えてアウトプットしているかだけのように考えたりしますね。デザイナーさんでも、職人タイプの人もいますし……。

育美さんと話していたら、音楽を作り上げていく育美さんのスタンスに、何となく僕の木工と共通点を感じます。

 

■イメージをカタチに

育美 大きな建築から小さな木工品に造るモノが変わって、ずいぶんと違いますよね?

元樹 ディティールの表現が建築空間から木工品になったときに、スケール感が全然違いました。

建築空間は一分(いちぶ)3㎜がディティールの表現における基本単位、木工芸は0.5ミリずれるとダメな世界。

スピードを上げ、どうコントロールし安定させたらたらいいのか、独学なのでかなり苦しみました。

どうにか最近になって、イメージしていた最低限のものが出せてきたかなと思っています。

育美 Ubgoeを立ち上げて、いつかは気仙沼のモノづくりの人とコラボレーションした作品を扱いたいと言っていたんです。その時に最初に名前を出したのが、リアスウッドラボ・気仙沼さんでした。

バターナイフとお魚トレイ、とっても可愛くて。バターナイフは、子どもたちのウッドナイフとしても使えて、とても気に入っています。

元樹 今回のバターナイフは、三陸沿岸に多く自生している樹齢400年のツバキの木材を使用しています。

育美 400年! ずっと気仙沼に根付いて、今度はこんなチャーミングなバターナイフに生まれ変わって。

マンボウとサメのお魚ウッドトレイも、とっても可愛い!!

 

元樹 お魚トレイは、北海道や東北北部に分布する朱里(シウリ)という桜の木を使っています。

木肌が緻密で美しい上に狂いや割れも少ないので、楽器や製図の定規にも使われています。

気に入っていただけてよかった。

育美 小柳さんは、信念をもって妥協せずに木工品を作られているので素敵だなと思います。

木工品も歌も、ものづくりってやっぱり心だよなと再確認させていただきました。

 

気仙沼唐桑半島 鮪立漁港にて

 


 

PROFILE

小柳元樹(こやなぎ げんき):1981年 長崎県出身。京都の建築現場を経て独立

北海道・東北を旅行中、気仙沼に向かう途上で東日本大震災に遭遇。

京都の自宅に帰り着けたのは1週間後だった。

2012 年 NPO の復興支援スタッフとして気仙沼に 来たことをきっかけに移住。

2014 年リアスウッドラボ・気仙沼を立ち上げ、木工造形作家として 家具や小物の製作を手がけている。

 


 

※1 2020年農林業センサス 参照

  農林水産省では、農林業・農山村の現状と変化を的確に捉え推進するために、

  5年ごとに農林業を営んでいるすべての農家、林家や法人を対象に調査を実施しています。

 

構成・文:藤川典良

 

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