熊谷育美の新曲『イロナキカゼ』――、お聴きになったみなさんには、どんな情景が浮かんでいたでしょう?
坂本サトルさんが、今の熊谷育美に必要だと送った曲のテーマは、“大人の片思い”。
それぞれの経験や思い出に照らし合わせ、淡く切ない感情を抱いた方も多いのではないでしょうか?
先日(12月9日)にアップされた熊谷育美 初のリリックビデオ『イロナキカゼ』は、全編イラストで描かれました。
手掛けたのは、関西から移住して気仙沼生活1年のイラストレーター&デザイナー・ささをか みさきさん。
リリックビデオ制作の苦労、彼女自身の<気仙沼とわたし>をお聞きしました。
■情景が浮かぶ楽曲に試行錯誤
育美
今回はありがとう。とても素敵に仕上げていただいて大満足。
私はイラストを使ったビデオは初めてで、どんなものが仕上がるのかとても楽しみだった。
ささ
あの熊谷育美さんの!?って。これは気仙沼の人に自慢できる、めちゃくちゃ大きなチャンスをもらったと。
『イロナキカゼ』は聴くだけですごく情景が浮かぶ曲なので、映像であんまり説明するのも野暮やなと思っていて……。
表現したいこととの戦いが、自分の中ですごくありました。
育美
私も自分のイメージを説明し過ぎて、かえって迷わせてしまったのかと反省しました。
ささ
映像がリアルに浮かぶ作品に私の思うイメージで描いてしまうと私が見えているストーリーだけになっちゃうし、
いろんなストーリーが入る余地もあるし……。
だから、聴いた人が思い浮かぶ情景を阻まない感じにというところがむずかしかったですし、面白かったですね。
育美
なんだりかんだり、何度もやり直しをさせちゃって。
ささ
育美さんには第一稿もすごく気に入ってもらって、それは育美さんから送られてきたLINEの文章からもすごく伝わってきました。
その後、楽曲を手掛けられた坂本サトルさんともやりとりさせていただいて、その最終稿もサトルさんに気に入っていただけたみたいでめっちゃ嬉しかった。
作り上げていく過程で私としてはすごくスキルアップができたので、いい経験でした。
■ものづくりは楽しい!
育美
楽曲をつくったサトルさんと、映像をつくるさささん。
二人の作家が表現に向かう様子を、私も拝見できて、すごく勉強になった。
結局、制作期間は約1ヶ月、かな? やっぱり考えてる期間のほうが長い?
ささ
歌詞を見ながら情景を思い浮かべて、伝えたいことはなんだろうと想像して、考えるところで2週間ぐらい。
最後にガッと集中して描きました。
考えるところが圧倒的にすごく長いですね。
育美
描く時にはどんな環境で描いてるの?
ささ
個室でガッと集中して描けたら望ましいんですけど、仕事場がコワーキングのシェアオフィスなんで人の出入りがあるし、家もシェアハウスなんで……。常に誰かがいてる(笑)。
出来るだけ人がいないところを探して、だいたい夜に描いてました。
育美
私は出来上がっていく過程も見ることができて、すごく面白かった。
ささ
ラフを紙に描いてある程度構図を決めたら、あとは描くのはi-Padです。
使い始めはホントに描けませんでしたが、今は慣れました。ものづくりは楽しい!
育美
スゴッ! 私、タブレットに受け取りサインするのも苦手なんだけど(笑)。
今、いくつだっけ?
ささ
26、です。
育美
ひとまわりぐらい違うじゃん。ちゃんと自分の意見も言えるめっちゃいい子だし。
制作中は、さささまと呼んでました(笑)。
■沼にハマる
育美
気仙沼には、今年来たんだっけ?
ささ
去年(2021年)の12月。気仙沼に来て1年です。
育美
ところで、なんで気仙沼に移住してきたの?
ささ
一度、去年(2021年)の夏に気仙沼に来たんです。
めっちゃメンタル落ちてる時で、大阪の職場でめちゃくちゃお世話になっていたお母さん的な人が、『あんた、このまま状況変わらんかったらしゃーないから、娘も働いてたとこで、めっちゃいいとこやから気仙沼に行ってき』と言われて、ゲストハウス架け橋(※1)に送り込まれて。2週間ぐらい、ふるさとワーホリ(※2)で気仙沼に来たんです。
ちょうど夏休みの時期やったんで、いろんな同世代の人たちとの出会いがあって、2週間いたらどっぷりと“沼”って。
育美
“沼”って(笑)。
ささ
気仙沼から大阪に帰ったら、なんも言わんくても、気仙沼ってめっちゃ良かったんやなって、まわりの人がみんな思うくらい、私の表情が違いすぎたらしくて。
でも、気仙沼から離れるとやっぱりまたメンタル落ちてきて……。その時に、2日間に3人の人から『あんたはあのまま気仙沼に移住するんやと思ってたわ』と言われて……、移住を決めました。
育美
で、実際に気仙沼に住んでみてどう?
ささ
普通に楽しすぎて、1年があっという間。ご縁ってあるんやなと。
気仙沼っていうのも、大阪でお世話になったお母さんの鶴の一声やし、その時にワーホリであった人に色々仕事をもらって、今住んでいるシェアハウスの元管理人もその時に架け橋であった人やし。
不思議な縁。私にとって、2022年は大変化の1年。いろんな人に助けられて、ホントありがてえー。
育美
普段、仕事はここで?
ささ
私は個人事業主で、投げていただいたデザイン関係の仕事をなんでもやりますって感じで、週4でこのシェアオフィスco-ba(※3)で働いて。週1で気仙沼クラフトビールのお店 Black Tide Brewing(※4)の店頭でビール売ってます。
今度、ビールのラベルデザインもやらせてもらいました。今、第二弾を制作中です。
■やりたいこと盛りだくさん
育美
これからどんなことがしたい?
ささ
この1年は生活を安定させることに集中してたんですけど、大変になっても助けてくれる人をいっぱい見つけたので、来年は作りたいものを全部作ろうと思ってます。
もともとミュージックビデオをフルアニメーションで作ったことがあって、めちゃ見せるのが恥ずかしいくらい下手くそなんですけど、でもチョーッ楽しくて。
自分の描いたキャラクターで自分の書いた詞と物語でフルアニメーションの動画を作ろうと思ってます。
ほかに……、私、文章を書くのも好きで。友だちが写真を撮るので、私の文章から感じたように写真を撮ってもらって展示するという作品展をやろうと思っていて。普通にイラスト本やエッセイとか、本も作ってみたい。
旅にも行きたいし、楽器はできないけどみんなでバンドもやりたい、映画も撮りたいっ!
やりたいことが尽きなくて、スケジュール管理が大変です(笑)。
育美
仕事をしながら野望を失わないのはすごく大事!
気仙沼に来て、いろんな人と出会って、楽しく過ごせているんなら何より。
ささ
なんやろ、気仙沼のみんな、小学生高校からの友だちみたいで。いろんな人にお世話になって、第三第四のお母さんも気仙沼にはたくさんいます!
めちゃくちゃいいとこですよ、気仙沼は!
今回、「イロナキカゼ」のリリックビデオの制作で初めてささをかさんと出会いました。(リモートでしたが…)
まずは作品の色使いと鮮やかさが素晴らしいと感じたのですが、作品についてのやり取りをしているうちに、
こちらのオーダーに対応する早さと、新しいものを素直に取り入れていく柔軟さこそが彼女の魅力であり、
今後の武器になっていくのだろうと思うようになりました。
これからの活躍、楽しみにしています!
PROFILE
ささをか みさき:兵庫県西宮市出身。イラストレータ、デザイナー。2021年12月に気仙沼に移住。
美術系大学でビジュアルデザインを学び、イラストレーションやアニメーション動画のほか、ロゴ制作など、
クリエイティブなことならなんでもこなし、日々進化中。
構成・文:藤川典良
※1 気仙沼ゲストハウス“架け橋”:古民家をリノベーションしたゲストハウス。地元の人が遊びに来たり、夜になると飲みにきたり、普通の宿とはちょっと違う、地元の人も宿泊者もゆっくりできる憩いの場所。
※2 ふるさとワーキングホリデー:都市部の学生や社会人などが、働いて収入を得ながら一定期間地方に滞在し、地域での暮らしを体験。地域の活性化とともに移住のきっかけをつくる制度。
※3 co-ba Kesennuma:気仙沼発市内のシェアオフィス。被災した建物を自分たちで直した大人の秘密基地のような場所。会員は全員が鍵をもち、24時間いつでも自由に出入りできる。
2020年10月に熊谷育美が2日間オンラインライブを配信したのはこの場所。
※4 Black Tide Brewing:震災後、「クラフトビールにコミュニティーづくり」をキーワードに結成された気仙沼のクラフトビール。季節やイベント、またその時々に新作が出され注目度の高いビール醸造所。
EP『ビギニング』12月25日発売
2022年、坂本サトル氏と共同プロデュースした3曲のリマスタリング音源&オリジナルカラオケバージョン収録!
M1.きみは、たからもの
M2.旅に出かけよう
M3.イロナキカゼ
M4.きみは、たからもの(Original Karaoke version)
M5.旅に出かけよう(Original Karaoke version)
M6.イロナキカゼ(Original Karaoke version)
※オリジナルカラオケ含め全6曲
URCD-0001 :¥1,500(税込) 送料別
■ご購入はこちらから(熊谷育美ECサイト「Ubgoe」)
https://ubgoe-kumagaiikumi.stores.jp/
※2022.12/25(日)販売開始予定となります。