気仙沼街道沿いの小さなお店、<日用品と喫茶 ハチワレ堂>。
止まっていた時計の針が、進みはじめます。
※「居心地のいい空間 vol.1はコチラ
■歯車が動き出す
綾美さんが車で通る道すがら、いつもシャッターが閉まっている場所がありました。
「何かすごく惹かれるものがあった」と綾美さんは言います。
大家さんを探して、中を見せてもらうことに……。元はスナックだったお店。
まだ賃貸にも出していなくて、改装してから出そうとしていたそうです。
「もう入った瞬間にビビビッ!みたいになって、シャッターを開けてもらった日に
『私借りたいです!』って(笑)。もうここで何かができる、自分も動けると感じました。
この日から、私と私の周りの歯車が一気に動き出した感覚は今でも鮮明に覚えています」
がらんとした改装前の店内に、大家さんがアンティークショップで買ったかわいい扉がふたつ、立てかけてありました。
改装したときに使いたいと購入していたそうです。
「この扉を使った空間にしたい、この扉に合うようなお店を作りたいと思いました」
場所は決まったものの、特にはっきり何をするのかまだ自分でも分かりませんでした。
「やりたいと思ったことが次に出てきたら、そこにステップアップできるための場所が欲しかったのでお店を長く続けることが大切なことだとも思っていませんでした。
自分の生活、心と体が健康であること。自分が好きなこと、いいなと思っていることをシェアできること。そういう場所が作れたら幸せだろうなと思っていました」
■生活のリズムがここにある
「生活の一部として続けられそうな雑貨屋さん。しかし、雑貨屋さんだけだとお客様が限られてしまう気がして……。カフェで7年働いた経験と、元々飲食店が入っていた場所だったので飲食店の許可が取りやすいこともあり、お店のスペースの半分を雑貨、もう半分を喫茶のスタイルにしようと決めました」
やりたかったこと、お店の雰囲気がどんどん湧いてきます。
「服屋さんで試着をしてから服を購入するように、店内で販売しているコーヒー豆や茶葉などを喫茶コーナーで試してもらえるようなイメージでした。喫茶で使用しているグラスやお皿なども一部購入できる物もあります。
気に入ったものがあれば家でもお店と同じものが飲める。ドリンクのレシピやおすすめの飲み方などもお伝えしています」
仕事終わり、家まで帰る少しの時間に女性が一人でもフラッと立ち寄り、そこでちょっとしたゆとりが生まれる空間。
コロナ禍では喫茶を休み、子どもが産まれ生活のリズムが変わると、お店の営業時間やお休みの日を変えていきました。
「お店のスタイルをコロコロと変えてしまい、お客様には申し訳ないけれど、まずは自分が健康で、幸せだと思えること。
“頑張りすぎない”を頑張る! 無理はしないということを一番に考えて、今は子どものことと家のことを一番大事にしています。
無理をして頑張りすぎると体調を崩してしまい、周りに迷惑をかけてしまうということが今までも何度かあったので……」
「自分で企画はあまりしていない」とはいいながら、2022年6月に改装が終わった2階のイベントスペースには市内だけでなく県外、市外からも使いたいとやってきてくれるそうです。
そのイベントを楽しみに、お客さまもまた県外、市外からわざわざ気仙沼まで足を運んできてくださいます。
「これまで、ワークショップや写真展、マルシェなどが2階のスペースで開催されてきました。
様々な方が自分の“好き”を大切に、それぞれの形で表現できる場所となっているのが見ていて楽しいですし、何かを始めるときの1歩目を踏み出す場として使ってもらえている気がします」
■好きなことをやっていいんだ
この13年で、綾美さんには家族ができ、大好きな雑貨に囲まれた自分自身が癒される場所ができました。
訪問した際も、雑貨を眺めに、コーヒーをテイクアウトしに、扉に引き寄せられた人たちが店を訪れていました。
「多くの方が震災後に気仙沼にやって来てくれたことで、気仙沼にいろんな価値観が生まれたような気がします。
20代の頃は命についてあまり深くは考えていなかったと思うんです。
けれど、いつどうなるかわからないみたいな思いが強くなっていて、悩んだら止めるのではなくて、悩んだらまずやってみる。
それがたとえうまくいかなくても絶対に自分の経験になるし、自分の命が終わるときに、きっと失敗したことではなくてやらなかったことを後悔するんじゃないかなって。一日一日を大切に過ごしたいと思えるようになりました。
震災後に出逢えた方たちは気仙沼での時間をとても楽しそうに過ごしていて、気仙沼には自然や食、生きる力のようなものが沢山あるということを教えてくれました。恥ずかしながら気仙沼出身の私よりも気仙沼のことを良く知っていたし、楽しみ方もすごく上手だった。
ちょっぴり悔しかったし羨ましさもありましたが、知らないならその方たちから学ぼうと思った。
私自身、好きなことを好きだと言い、それを形にしていいんだと、そういう考えになれたことは今すごく自分の力になっていると思います」
気仙沼街道沿いの小さなお店。扉を開けると、そこには優しい時間が流れています。
育美 綾美ちゃんが自分のお店をもつと聞いたときは驚きよりも、合点がいきました(笑)。
昔から綾美ちゃんは絶対何かやる!と思ってました。
お店に来られるお客様は綾美ちゃんの「ファン」。店主である綾美ちゃんと素敵な空間が、なんとも言えない絶妙な居場所を提供してくれている。
気仙沼在住のイラストレーター 山本重也さんの、<日常茶飯絵 2023年8月23日>に描いていただいたハチワレ堂。
山本さんには、「気仙沼とわたし」にも登場していただきました。詳しくはコチラ。
構成・文/藤川典良
お店紹介
ハチワレとは、、、
ハチワレは猫の模様のことで、以前綾美さんが飼っていた猫もハチワレでした。
昔は鉢が割れることを連想したり、頭が割れているように見えることから縁起が悪くて産まれたそばから捨てられていたそうですが、現在は末広がりで縁起がいいので福猫とされているんだとか。
お店のディスプレイで使用している家具の一部やカウンター板、看板等は元々捨てられる運命だったものを譲っていただき使用しているそうです。
定休日:火曜と水曜
Instagram https://www.instagram.com/8waredou/