季節や時間で刻々と移りゆく風景を、365日欠かさず水彩画で描く山本重也さん。
その『日常茶飯絵』に、「一日一日の大切さに気づかされた」と話す熊谷育美。
今回の「気仙沼とわたし」は、2023年5月末に仙台から気仙沼に移住して来られた山本重也との対談をお届けします。
■リスナーさんが繋げてくれた、二人の縁
育美 山本さんが気仙沼に移住されて……、2ヶ月?
山本 5月29日なので、2ヶ月ですね。引っ越してきたその日が、ちょうど気仙沼市魚市場の水揚げ金額が過去最高を記録した日(※1)でした。
育美 それは、忘れられない日ですね。山本さんの移住を歓迎してるみたい 笑。
まだ2ヶ月ですが、気仙沼での暮らしはどうですか?
山本 気仙沼……、いいですね。でもね、5月末に気仙沼に来た時はまだ夜になると寒くて、びっくりしました。
大阪や東京じゃ6月になると暑いし、ずっとジメジメしてるし、家を出た瞬間に汗がドッと吹き出してきますもんね。
でも、気仙沼では6月なのに風も爽やかで……。生まれて初めて過ごしやすいねって、妻と話していました。
家の2階から内湾も見えるので、冬の気嵐も楽しみにしています。
育美 こうして気仙沼の内湾を見ながら、山本さんとお話ししてるって不思議な感じです。
山本 2年前くらいに、僕のfacebookをフォローしてくれてる人が、「熊谷育美さんがラジオで山本さんのことを話してた」って教えてくれて。放送後にradiko(ラジコ)で聴いたら僕のこと喋ってくれてて……。嬉しくて、すぐに「ありがとうございます!」ってメッセージを送って……。
育美 そう、超びっくりして 笑。ラジオのレギュラー番組で絵にまつわるエピソードを募集して、メッセージをたくさんいただいた中でリスナーさんから山本さんが描く水彩画について、「光や気温などの表現にはリアルで引き込まれます。夏の強い日差しの絵には思わず目を細め、春に向かう時期の陽気の絵には思わず目を和らげてしまう描写力には大袈裟でなく感動します」(引用)と、山本さんの絵をものすごく的確に表現したメッセージをくださって……。私も雑誌のイラストなどで山本重也さんは存知上げていますってお話ししました。リスナーさんが、つなげてくださったんです。その後、産休明けで久しぶりにライブがあってお誘いさせていただいて。
そのコンサートっていうのは、塩釜の塩竈市杉村惇美術館を会場に開催した、『島を踊る、風を撮る、光を奏でる』というライブ。舞踏家のATSUSHIさん、写真家のKIKIさん、和太鼓の Atoa.さんとの、舞踏と写真と音楽のセッションっていう、ちょっと異色なライブだったんですけど、お声掛けさせていただいたところ、宮城2days初日の塩釜公演に、なんと来ていただいて……。
山本 即興で弾いてらして、育美さんも際立っていましたよね。
育美 私にとっても挑戦的だったんですけど、翌日になんと山本さんが絵にしてくださって、大感激しました。それが初めてお会いした時ですね。
昨年夏には、仙台市内で行われた篠笛奏者の石田陽祐さんとのスペシャルコンサート『晩夏の調べ』にもご夫婦で見に来てくださり、その際にも『日常茶飯絵』として描いていただきました。
■海と人、気仙沼を描く
山本 その後、去年(2022年)の12月末に気仙沼に行った際に育美さんにお声がけしたら、 会いに来ていただいて……。
その時のインパクトが、やっぱり私たちの心を決めました。あの1泊2日の気仙沼の印象がすごく良かった。
その後もいろんな方が繋いでくださり、何人かに言っただけなのに、結構たくさんの人たちから「山本さん、気仙沼に住むの?」って聞かれました 笑
育美 みんな、山本さんぜひぜひ気仙沼にっていう、ウェルカムモードでこの日を待ってたわけですよね。
山本 いや、本当にありがたい。実は、3、4年前からどこかいいところがないか地図を見て探していたんです。仙台で『日常茶飯絵』の個展を開催したときのアンケートでも、「気仙沼を描いてほしい」という声が多く、気仙沼について熱く語る知人もいて、気仙沼がいいなと思い移住を考えるようになりました。ペットのモコ(ワンちゃん)もいるので家探しは難航しました。けれどタイミング良くいい物件を探していただいたり、妻の友だちが色々お世話いただいている人と従兄弟だったり、人のつながりを感じています。
育美 本当に気仙沼に来ていただけて良かったです。私は山本さんが気仙沼に移住されるっていう話があった時に、山本さんはやっぱり作品を描きたいっていう思い、気仙沼を描きたいっていう情熱を感じて、素晴らしいなぁと思いました。
山本 毎日描くっていうのはずっと続けていて、見る景色がいかに自分に影響するかっていうのも毎日描いているから余計感じるんです。
そういう意味で、海を毎日見るってどうなるのかな、空や海の色も季節や時間によって変わるのを体感して、それを表現し描く中で自分がどう変化していくのかを試したいっていうのがあります。海を取り巻くこの気仙沼や町並み、人やその営み。そして、この漁業の町が僕にとってはすごく新鮮で……。仙台もポテンシャルが高かったですが、それに匹敵する港町があるなっていう目で、ずっと気仙沼を見ていたんです。
育美 気仙沼への移住には、ファンの方も驚かれたと思います。仙台の個展も見せていただいて、毎日が本当に繰り返されていく。365日、やっぱりあるんだなあと思って、一日一日を大切に生きなくちゃなーとも思ったし、普段見ているようで見えていない風景っていっぱいあるんですよね。日常の中で、多分もっと大切なことを忘れているようなことを、山本さんが描かれる絵を見ていると思い起こさせてくださいます。山本さんにもお話ししたことあったんですけど、雨の日の美しさを、私は山本さんの絵から教わりました。路面が濡れて映り込む光、色とりどりの傘。私は、雨の日って目を伏せてしまいがちだったんですが、雨の日も美しいと感じるようになりました。
山本 大阪風に言うと雨の日って、いわゆるうっとうしい天気ですよね。でも景色に関して言えば、必ず何かいいものがあるって思うんです。この場所は見たことあるから描かなくていいと言うのではない。同じ場所でも、季節や時間で同じ景色はありません。いつも初めて見るような新鮮な気持ちで、色合い、コントラスト、光を見つけようとするような気持ちでいつも見てるんです。
育美 すごいですよね。これから山本さんの描く気仙沼を毎日見ることができるのが、本当に楽しみです!
さらに、ミュージシャンとイラストレーターの対談は続き、後編(Vol.2)へ!
(※1)令和5年5月29日、気仙沼市魚市場の水揚げ金額が過去最高を記録。
水揚高 金額 537,525千円(税抜き) 数量 1,329トン
(参考)気仙沼市魚市場における1日あたりの最高記録
金額 491,300千円8税抜き)(昭和57年10月9日)
数量 3,095トン(昭和55年11月8日)
隻数 343隻(平成12年11月6日)
PROFILE
山本重也
1964年生まれ、大阪市出身。1986年大阪にてイラストレーターとして活動を開始。2001年東京に活動拠点を移し16年間東京で活動した後、2017年秋に仙台、2023年5月末に気仙沼市に移住。
1996年「中国新聞広告賞 カラー部門賞」受賞。2004年「日本出版美術家連盟 新人賞」受賞。仙台の情報誌『りらく』で「山本重也の日常茶飯絵」、NHK仙台放送局『大好き東北 定禅寺おしゃべり亭』でゲストの似顔絵を担当。
日本国内の個展をはじめ、釜山、ニューヨークでも展覧会に参加。書籍、新聞小説などの装丁画や挿絵、音楽CDジャケットイラスト、広告等数多くを手掛ける。
2003年11月から、一日一枚描く「日常茶飯絵」を継続中。2023年、山本重他作品展『光」開催。
『第71回 気仙沼みなとまつり』情報!!
2023年8月5日(土)、6日(日)、気仙沼みなとまつり開催!
熊谷育美は、5日(土)の【はまらいんや踊り】内湾特設ステージにて、バイソンバンドの一員として鍵盤生演奏!
演奏:バイソンバンド
小山田和正(ドラム)、岡本優子(ピアノ)
熊谷育美(ピアノ)、永見寿久(ベース)
山本重也さんも、はまらいんや踊り&みなとまつりパレードに初参加!
気仙沼ひょっとこ踊り保存会のメンバーとして、<ひょっとこ踊り>を披露。
気仙沼みなとまつり公式WSを今すぐ、Check Now!
構成・文:藤川典良