Kesennuma

人を旅する
〜気仙沼はいつでも待っていてくれる場所〜

23年版『住みたい田舎』ベストランキング(『田舎暮らしの本』発行:宝島社)で、東北エリア総合部門2位を獲得した気仙沼。

ここ数年で移住者の数も増えましたが、人にはさまざまな人生があるもの。

それぞれ人生の岐路に、出会いや別れはつきものです。

熊谷育美が22年にリリースした『イロナキカゼ』(作詞・作曲 坂本サトル)のリリックビデオ制作を手掛けてくれた、ささをか みさきさんが9月1日、気仙沼から旅立ちました。

2年9ヶ月に及ぶ気仙沼での経験と今後、ささちゃん聞かせて。

 

 

■つながり続けるどこまでも

育美 ささちゃんが気仙沼を離れるって聞いた時は、今も色々仕事も充実してそうだし、「えっ?っ、なんで?」って。

 

ささをか(以下ささ) あまり年齢を気にするタイプではないけど、あと2年で30歳。長い旅をしたり、自由に動き回ったりすることを考えたら、今しかないなって思いました。

多分あと1、2年気仙沼にいたら、もっと関わりや継続的な仕事も増えてきそうだなって考えて……。

一緒に住んでいた同じ関西出身の子も気仙沼を離れることやシェアしていた家をどうするか、タイミングがいろいろ重なりました。

もともと旅は憧れていたので、旅するなら今だなって思ったんです。

気仙沼でいろいろお世話になっている杉浦恵一さん(※1)に、東松島のKIBOTCHA(キボッチャ ※2)の活動のことも聞いて、面白そうだなと……。

まずはKIBOTCHAにお世話になることにしました。

 

育美 KIBOTCHA・・・!

 

 

ささ 普段は宿泊施設でグランピングやバーベキューもできる施設なんですが、防災プログラムなどいろいろ体験もできるんです。

もしどこかで災害が起こった時にたくさんの人が暮らせるための村を作るっていうのをやろうとしてるらしく、面白そうだなって。

その宿泊施設でお手伝いしながら、いろいろな人に出会って自分の価値観を広げていけたらいいなと思っています。

 

育美 へー!すごい!新たな発見がたくさんありそうだね!

東松島は私もこれまで何度かライブでお世話になったけど、東松島といえばヴァイオリニストの鹿嶋静さんだなあ。東松島観光大使も務めていらっしゃるんだけど!

 

ささ えっ!?

 

育美 アーティストとして大先輩で兄貴分の坂本サトルさんのつながりで、私はヴァイオリニストの鹿嶋静さん(※2)を紹介してもらって、これまでお仕事も何度もご一緒させていただいてるの。

その静さんが東松島のご出身で、震災直後から東松島を芸術で応援するプロジェクトをされていて、東松島市内の子どもたちにヴァイオリン体験をされたり、市民の方々とワークショップを通じて松島の歌を制作されたり……。

震災10年目の21年3月11日には、世界中からオンラインで追悼できるプロジェクト「ともす想い たくす灯火」をKIBOTCHAと主催もされているとのこと。

ささちゃんがリリックビデオ制作してくれた『イロナキカゼ』、静さんも参加してくれてるよ!

 

ささ まさか、繋がってるなんて、ビックリ!

 

■デザインという仕事

育美 ところで、気仙沼には何年いたの?

 

ささ 来たのが21年12月だから、2年半ですね。気仙沼に来た当時は何をするかも決めてなくて……。

デザイン学科は2年間通って、でも中退したのでデザインの道には進まない、一生デザインとは縁がないんだと思ってたんです。

けど、色々相談に乗ってもらっていた恵一さんにデザインの仕事あるからやってみる?と拾っていただ来ました。

そこで、これはぜったい乗っかるやつだと思いました。でもやっぱ、自分が思ってたデザインの仕事と、実際のデザイナーの仕事は全然違う。

 

育美 それは、何が思ってたのと違ってた?

 

ささ ただ美しいもの、カッコいいものを作るのではなくて、クライアントさんがどういうのを作りたいか、どういう目的で作るかっていうコミュニケーション能力がすごい大切だと感じました。

この2年半、いろんな方に仕事の姿勢を見聞きする中では、売上を上げるためには目的を達成するための戦略的な思考、規格に沿ったデザインの重要性も学ばせて頂きました。

 

育美 気仙沼を離れたら、気仙沼での仕事は終わりというわけでもないよね?

 

ささ 引き続き、 BTBのラベルデザインのお仕事など依頼があれば、なんでも!

 

ささちゃん、気仙沼での2年半で依頼され制作した一部

 

育美 イラストが描けるのも大きいね。伝わりやすいし。

でも一番は、ささちゃんの人柄が愛されキャラなんだと思う!

 

ささ 何歳までこのキャラクターが通用するのかもしれないけど 笑

 

育美 大丈夫。おんなじようにみんな歳を取っていくから、年の差は縮まらないよ笑

 

■ささ、『人生の歩き方』

育美 気仙沼での一番の思い出って何なの?

 

ささ いろんな人に聞かれてめっちゃ悩むんですけど、メンタルを病んでいた時に、紹介されて初めて気仙沼に来たときの衝撃がやっぱり一番強くて、ガラッと価値観が変わった。

ワーホリ(ワーキングホリデー)の2週間でいろんな人に会わせてもらいお話を聞いて、パワフルな気仙沼の人たちのように、いつか自分も復活できると思えたのが一番の思い出ですね。

 

育美 ささちゃんが昨年(23年)に作った冊子『人生の歩き方』は、それが形になったものだね。

 

ささ 気仙沼には<ぬま大学>(※3)というのがあります。約半年間の講義で、受講生が気仙沼でやりたいことを形に残すプログラムに私も参加しました。でも結局、最後の最後まで何をやるかマジで決まってなくて、コーディネーターの志田 淳さん(※4)に、「誰にどんなメッセージを届けたいの」って言われました。

そこで私は自身の経験を踏まえて、生きるのがつらくなったり、変わりたいけど変われなかったり、そういう人に生きるのってこんなに楽しいんだよってメッセージを伝えたいって思って……。

今の私の現在地、自分が元気になった経緯を踏まえた上で、気仙沼のいろんな人の生き方を知って希望に変わったっていうがあるから、いろんな人のお話を聞いてそれを冊子の形にしました。

育美さんにも取材させていただいて、育美さんの『逃げるのも戦略』というお話もすごく印象に残っています。

 

 

 

育美 私はレコード会社から声がかかり18歳で上京したけど曲が作れなくなったり、馴染めなくて。

で、気仙沼に帰ってきて曲作りをする今のカタチに落ち着いたから。その場所に無理にしがみつくことはない、自分らしくあるために、逃げるのも戦略のうち。

 

ささ 育美さんのお話を聞いて、響く人はたくさんいると思います!

 

育美 旅をするって言ってたけど、東松島の先はどうするか決めているの?

 

ささ まだ決めていないんです。けど、2年後に奈良県で友達がキャンプ場オープンするためにサポートしてる人を探しているので、そういうの渡り歩いていきたいですね。いろんな人に出会って、いろんな人の話を聞いて、そいういう旅や体験を交えて、いろんな人と関われたらいいなと思っていたんです。けど、KIBOTCHAが本当にすごい面白そうなので、どうなるか。奈良とか行ったり、ほかの友達がいるところに行ったりしたいし。

でも離れるって決めてからも、気仙沼で面白い話が色々生まれそうなので、やっぱり気仙沼との繋がりは切れないんだろうなと思っています!

 

育美 そうだね第2の故郷。とにかく体に気をつけて、行ってらっしゃい!

 

 

毎日、日本全国各地から多くの船が行き交う港町・気仙沼。

いつも、いつでも、訪れる人を笑顔で迎えることができる寄港地のように、

ささちゃんも「おかえりなさい」と温かく迎えたい。

そして、出会ったいろんな人のお話を聞かせてくださいね。

 

 

撮影協力/BLACK TIDE BREWING

構成・文/藤川典良

 


ささ、お気に入りの場所・内湾。内湾広場では、随時イベントも実施。
写真撮影時は、<わくわく大作戦>開催中で、漁網を使ったロングベンチでひと休み。

 

ささをか みさき PROFILE

ささをか みさき:兵庫県西宮市出身。イラストレーター、デザイナー。

21年12月、気仙沼に移住。イラストレーションやアニメーション動画のほか、ロゴ制作、パンフレットやポスター等のグラフィックなど、を幅広く手掛ける。

依頼を受けて制作するポップなイメージと対照的に、自身が創作する内省的な作品も魅力的。今後が楽しみです。

 

24年7月に開催されたグルプ展『ギャラクシードロシーリラックスラビソング』で、ささをかさんが壁に描いた作品。建物解体で展示は2日限りとなった

 

※1 杉浦恵一:愛知県出身。震災を機に気仙沼に関わり、月命日にキャンドルを灯す『ともしびプロジェクト』、シェアオフィス『co-ba KESENNUMA』、ゲストハウス『SLOW HOUSE @kesennnuma』など、気仙沼での場づくりを展開。

 

※2 KIBOTCHA:東松島市の東日本大震災で被災した施設(旧 野蒜小学校)を手直しし、宿泊所や食堂としてリユース。震災の規則の伝承と防災の継承を伝える活動を行なっている。

 

※3 鹿嶋 静:ヴァイオリニスト。宮城県東松島市出身。多くのミュージシャンのライブやレコーディングに参加。グラミー賞を受賞した喜多郎氏のワールドツアーのソリストとしても演奏を行う。東松島では、多くの子どもたち、市民と一緒にさまざまなプロジェクトを精力的に展開。東松島ふるさと大使。

 

※4 ぬま大学:気仙沼出身、在住の20〜30代を対象に、自らが気仙沼で実行するプラン(マイプラン)をつくりあげていく約半年間のプログラム。

 

※5 志田淳:クリエイティブディレクター/デザイナー。熊谷育美の幼馴染。ラヂオ気仙沼のパーソナリティ。育美の『きみは、たからもの』『旅に出かけよう』『イロナキカゼ』『ビギニング』のアートワークを手掛ける。

 

 

なないろの芸術祭「NOBIRU”WELL”CampFes 2024」開催

文中に登場したKIBOTCHAで開催される「NOBIRU”WELL”CampFes 2024」に、鹿嶋静さん、熊谷育美も出演!

■日時:2024.9/7(土)10:00~21:00 ※タイムスケジュール

■会場:KIBOTCHA 宮城県東松島市野蒜字亀岡80番

※チケット等詳細は「なないろの芸術祭」Webサイトをご覧ください。