Kesennuma

2026.02.20
海が教えてくれる Vol.11 〜勝倉漁業 Part .1〜

 

気仙沼内湾の岸壁に整然と並ぶ漁船を当たり前のように眺め、かつおやまぐろが身近な気仙沼。内湾では、出船送りや長い航海を終えて帰港する船を迎えるシーンにもよく出合います。遠洋まぐろ延縄(はえなわ)漁業(※1)で世界の海で活躍する勝栄丸船団を有する勝倉漁業 社長の勝倉宏明さんに、遠洋漁業と現在気仙沼市が推進している気仙沼市デジタル水産業についてお聞きしました。

 

■世界の海で

応接室の壁の世界地図には、勝倉漁業が所有する、第1勝栄丸、第7勝栄丸、第123勝栄丸、第127勝栄丸の4隻の居場所が記されています。漁場は、中部大西洋漁場、南太平洋漁場、ほかにも漁場は、北大西洋、南インド洋、アフリカ沖、東部太平洋と、まさに世界の海で漁を展開しています。

 

育美 ほんとに、地球儀の世界だな……。

 

勝倉 今は漁業の担い手にも力を入れていますが、遠洋漁業では気仙沼に住んでいなくても採用できるんですよ。それが遠洋漁業の一番のメリット。だからうちの船員は、北海道、東北、関東、関西、九州までいます。

 

育美 出航する時に、その場所に来てくれたらいいってことですか?

 

勝倉 そうですね。気仙沼から出航するその前に来てくれれば、それでいい。大西洋で操業している船には飛行機で渡航するので、飛行機で現地に行って乗船します。だから空港で集合し、飛行機のチケットも会社が手配します。国内移動もそうだし、海外のフライトも宿泊も会社が手配します。

ほとんどの船が日本に帰って来てるんですけど、うちのように大西洋の港を基地にそこで船の整備をして、乗組員は飛行機で行き来する“基地操業”のパターンもあります。

 

育美 そんな遠い場所でまぐろを獲っているんですね……。

 

「勝栄丸ブログ」より:2025/10/29 清水港で第7勝栄丸のみなみまぐろ水揚げ!

 

勝倉 遠洋漁業だけど感覚的には大西洋の基地港から、気仙沼で言えば三陸沖ぐらいの距離のところに魚を獲りに行くような感じです。日本からは遠いけど、海外の基地からは近い。

 

育美 当たり前のように話をされていますが、規模感が…… 笑。

1回の漁で、海の上には何日くらい居るんでしょうか?

 

 

勝倉 大西洋の場合は決まっていて、だいたい7月くらいに出航して、9月に補給基地のラスパルマス(アフリカ沿岸 カナリア諸島のひとつグランカナリア島の県都)に寄港。燃料補給等をして、アイルランド沖やアイスランド沖で本まぐろを獲って、1ヶ月半から2ヶ月で戻ってくる。その繰り返しで、3月ぐらいまで操業して、またラスパルマスに戻ってくる。だいたいトータルで約9〜10ヶ月。その間に、頻繁に港には入ります。

 

■獲ったマグロはどう運ぶ?

育美 ところで、漁船は1日でどれくらいの距離を移動できるんですか?

 

勝倉 うちの船は、最大速力が11ノットぐらい。時速20キロぐらいなので、24時間走り続けると480キロですね。そんなに速い船じゃないから。

 

育美 たくさんお魚も積んでますもんね。

 

勝倉 燃料をはじめ、まぐろを釣るエサ、食料品などいろんなものを積んでいるので、出航するときは油も満載で、餌が魚倉の半分くらいは入っているので、結構重量があります。それで餌を消化して、代わりにまぐろが増えていく。安い単価の餌を使って、単価の高いまぐろを獲る。まるで、錬金術のようです。

「勝栄丸ブログ」より:2025/6/2第123勝栄丸の餌積みが終了

 

育美 確かに笑)。ところで遠くで獲った魚は、その後どういう経路を辿るんですか?

 

勝倉 まぐろの漁場からの輸送は、基本的に日本に近いところは本船で運びます。遠い漁場は3,000トンほど積める冷凍運搬船が日本から出て、漁場にいる船から集荷し、日本に持って帰ってきます。まぁ、宅配便が企業に行き、集荷するのと一緒です。

 

育美 笑 わかりやすい例えですね。

 

勝倉 冷凍運搬船は日本から出ていく時に、食料品をはじめ、修理・修繕に必要な機械部品、乗組員の嗜好品、餌や漁具を漁場に持っていき、代わりにまぐろを預かって持って帰ってくるんです。

もう一つは北欧の会社のサービスで、冷凍コンテナ(マイナス60度)に積み込み日本に運ぶ。ほかに、海外の港で水揚げし輸出することもあります。

「勝栄丸ブログ」より:2025/6/14 第1勝栄丸のまぐろ類をコンテナ輸送

 

今はいろんな資材、特に燃料が非常に高く、以前と比べ燃料代が倍になってる。1年間で約1,000kl使うと、油代が昔は6千万で済んだのが、今は1億2千万。……。

 

育美 すごい……。それに対して漁獲量はどうなっているんですか?

 

勝倉 脂が乗った高級な本まぐろや南の高緯度海域で獲れるみなみまぐろの漁獲量は増加傾向にあるけれども、とても厳しい管理が行われています。私も毎年、みなみまぐろ条約会議(※2)に出席していて、条約加盟国間の話し合いで国別の漁獲量や資源管理のルールを決めるんです。日本漁船は出漁する1隻ごとに漁獲上限の数量が決まっていて、1キロでもオーバーすることはできないんですよ。

 

育美 それは厳しい!

 

「勝栄丸ブログ」より:2025/10/10 バリ島でCCBT年次会合に出席

 

■家族のケア

育美 先ほど9〜10ヶ月は操業とお聞きしましたが、ご家族とその間は離れて生活ですよね。私も子どもがいますが、長い間会えないと、寂しいですね……。

 

 

勝倉 昔だったら、1回出航してしまえば音信不通。できて電話ぐらいで、でも高いので頻繁には電話できなかった。また、古くは電報という時代もありました。

今、うちの船は全船にwi-fi入っているんですよ。昔はアナログだったけどデジタル回線になって、4-5年前から従量課金だったものが定額制になり、みんなが使えるようになりました。今はインターネットのwi-fi環境が整っています。

昨年(2025)2月から、通信衛星スターリンク(※3)のサービスが始まりました。

定額制のサービスで従来のインマルサット衛星の半値に近い料金で利用できます。そして、陸上で使っているスマートフォンよりも速いと感じるほどのスピード感。一番大きいのが、設備費用が激安! 気仙沼ではうちが、最初に導入しました。

 

育美 先駆け、ですね!

 

「勝栄丸ブログ」より:2021/7/12 第127勝栄丸にインサルマットFXを搭載

 

勝倉 インマルサットでのWi -Fi導入は設備投資も高額なので、躊躇する会社もありました。でもうちでは乗組員に対して、何年も前から家族との通信の自由度や陸上の情報にアクセスできるツールを提供しています。これまで子どもが産まれたばかりの船員は帰るまで会えなかったけど今は、テレビ電話で毎日「お疲れさん」「元気?」ってやりとりしています。

 

育美 それは、ご家族も安心ですよね。

 

勝倉 勝倉漁業のモットーは、<乗組員ファースト>。船でのWi-Fiも、そのひとつです。陸上と同じように家族と顔を見ながら話ができたり、合間の時間にYoutubeを楽しんだり……。今、みらい造船で建造中の船には、より通信環境を良くするためにスターリンクを2機搭載して機器トラブルに対処できるようにしています。今後さらにこの十数年で、更に新しいシステムができるかもしれません。すぐに機器の更新や配線などがスムーズにできるよう、新造船にはそのスペースも確保しています。

 

「勝栄丸ブログ」より:2025/12/14 みらい造船にて勝倉漁業の新船 仮進水式

 

育美 笑 すごい! 

 

世界の海をまたにかける、遠洋漁業とその乗組員たち。勝倉漁業の会社案内の表紙には、「世界の海へ 海と共に、人と共に! 勝栄丸」と、力強い言葉が記されています。人と共に、まさに乗組員ファーストですね。

 

勝倉漁業 part.2へ

 


※1 遠洋まぐろ延縄(はえなわ)漁業:約150kmにもなる一本の長い幹縄(みきなわ)に、約3000本の釣り針付きの枝縄(えだなわ)を取り付けて海中に垂らす漁法で、餌にはイカ、アジ、サバ等が使われます。海中に縄を投げ込む投縄(とうなわ)から2~3時間まぐろが掛かるのを待つ縄待ち。その後、縄を引き揚げる揚縄(あげなわ)が始まります。この時、まぐろを引き上げるだけでなく、縄の回収や絡まった縄の修復などが含まれ、時には12時間以上かかることもあります。

 

※2 みなみまぐろ条約会議:みなみまぐろの分布域横断的な管理に責任を有する政府間機関みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)の会議。オーストラリア、欧州連合、台湾、インドネシア、日本、大韓民国、ニュージーランド及び南アフリカで構成されています。

 

※3 スターリンク:イーロン・マスクが設立したアメリカの航空宇宙企業・SpaceX社が提供する、地球低軌道に多数の小型衛星を配置して実現する高速・低遅延の衛星インターネットサービス。光回線が届かない山間部や海上でも、専用アンテナを設置するだけで高速インターネット接続が可能になります。

 

(取材日:2025年12月17日)

撮影/スタジオアート

構成・文/藤川典良