Kesennuma

2025.08.01
海が教えてくれるvol.4 〜宮城県北部船主協会〜

気仙沼が産んだキャラクターといえば、なんと言っても“ホヤぼーや”が超有名なのはみなさん周知のこと。だけど、♪海は広いな大きいな🎵。海にはたーくさんの生き物がいます。その中で知名度抜群の魚をモチーフにした、未来の漁業を担うキャラクターがいるのはご存知でしょうか? マグロをモチーフにしたキャラの名は、「まぐぞう」と「めばっち」。

その生みの親は、この13年間で250人もの漁業の担い手を輩出している宮城県北部船主協会。一般人には、あまり接点のない船主協会というお仕事ですが、船主協会事務局長 兼 漁師リクルーターの吉田鶴男(たづお)さんに、あれこれお聞きしました。

 

◾️夢を叶える!

育美 2021年に始まったYoutubeの「遠洋漁師になるって夢を叶える動画っ!」は、アニメもほんと独特なキャラですよね!キュートなゆるキャラに見えたり、パンクな感じでキリッとしたり……w。

 

episode0 漁師にあこがれて 【シリーズ解説】 ※画像をタップすると動画を見ることができます

 

なんと、現在はシーズン5まで進んでいますよね。漁師さんのお仕事内容はもちろん賃金や待遇のことまで、幅広く取り上げています。最近では、遠洋マグロ船の一本釣りVR動画が迫力満点!

Xやブログ、YoutubeにTikTokと、吉田さんの発信力はすごいですね!

 

【カツオ漁】大迫力VR動画 スマホ、PC、VRゴーグルで360度見れます! ※画像をタップすると動画を見ることができます

 

吉田 動画はAIがかなり発達してきて、テンプレートと、プラスAIでとそこそこの動画が瞬時にできます。だけど、再生100万回は超えない、バズらないんです。やはり、最後は手作業で、心を込めて修正していかないと伝わらない。

 

育美 なるほど、深いですね。

 

そもそも、船主協会とはなんぞや?ですが、宮城県北部船主協会は気仙沼港船籍の遠洋・近海漁船のオーナー方で、1964年(昭和39年)に設立した団体。当初は、船会社と乗組員の労働組合の賃金交渉などを行っていましたが、労働状況や環境も成熟。徐々に、後継者育成にウェイトを置くようになっていきました。

 

育美 宮城県北部船主協会さんのブログや動画は、すごく丁寧に作られていてビックリですが、吉田さんが制作していらっしゃるんですよね?

 

吉田 高校生の頃から映画好きで、20代を全部映画制作に捧げようと思っていたほどでした。やがて、スマホが出てくると簡単に映像が撮れて、編集ができる時代がやってきました。

最初は、ツイッター(現在のX)から始め、ブログやYouTubeになると、好きでやっていた企画や文章、写真の経験が活きてきました。テレビでも度々取り上げられ、2017年には、テレビ番組の企画で「漁師の青年にAKB48がサプライズ成人式!」の番組構成サポートまで(笑)。今までやりたいと思ったことが、全部できている。今の悩みは、夢が叶いすぎて夢がないんです。

 

※このサプライズ企画の詳細は、ブログ「漁師の青年にAKB48がサプライズ成人式!」

 

育美 すごすぎる!夢が叶いすぎるって、羨ましいです。メディアさんとのやりとりや、発信もそうですけど、船会社さんとの繋がりや気仙沼の水産業界のことを知らないと、一般の人が出来ることではないですもんね。

どんな経緯で、この世界に入ったのですか?

 

吉田 私は高校卒業後、車関係の仕事に就きましたがストレスで体を壊し、少し体を休めるつもりでバイトで入ったのが船主協会でした。でも遠洋漁業に関わっていると、どんどん視点がグローバルになって、それが面白かった。気がついたら、35年です(笑)。

 

育美 気がついたら(笑)仕事が面白くて、すべて網羅しているからこそなせる技です。ブログや動画を見て、問い合わせてくる方もいますか?

 

吉田 直で問い合わせがくるのはTikTok。コメントが入ると、100%返しています。電話やオンライン、遠方の人でも、できるだけ会うようにしています。

 

買い物動画として全国ニュースに! 183.6万回再生 3.5万いいね ※画像をタップすると動画を見ることができます

 

吉田 そして、女の人が面白いって言ってくれないと男も反応しないんです。女性たちが漁師はカッコいいわねと思った瞬間に、男性がキャッチしてそっちに興味がいくんじゃないかな。TikTokも100万回再生超えが2つあるんですけど、どちらも女性目線で作ったもの。女性から「泣けます」「感動します」と反響があった。すると自動的に男性からの問い合わせが増えます。

 

吉田さんのお気に入り動画 156.2万回再生 2.9万いいね ※画像をタップすると動画を見ることができます

 

◾️親目線で、若手漁師を見守る

育美 漁師さんは、かなりハードなお仕事ですよね。実際に船に乗ってみたけど、やっぱり合わないということもありますか? 吉田さんには、そんな相談も多いんでしょうか?

 

吉田 お悩み相談的なのもありますよ。沖に出ていても、LINEなどで連絡は取っています。以前は、スペインから電話もらって、1時間の長電話。通話料もバカにならないですが、聞いてもらうだけでその価値はあるっていうんです。

 

育美 自分が繋いだ漁師さんたちには、やっぱり親心が芽生えるものなんですか。

 

吉田 若い時は弟みたいな感じでしたが、歳を重ねると自分の子どもと同世代の子が漁師になりたいとやってくるので、普通に心配で心配で……。

 

育美 実際に気仙沼港に帰港したら、一緒にご飯に行かれたりも……?

 

吉田 現地の思い出話を聞いたり、愚痴や文句を聞いたり、あとは出航直前には、陸に上がってる2ヶ月の休みのことを聞いたり。

彼らの中には、次の年に納める税金除いて、2ヶ月で年収を使い切り、スッカラカンになって沖に出る。大西洋で操業して、日本に戻ってきたら、休みの間にまた、6カ国まわって遊んできたって……。

 

育美 本当にダイナミックで豪快! すごく、漁師さんっぽい!

 

◾️本気でぶつかり、漁師の存在意義を伝える

育美 本当に、漁師なるぞって決意したら、住まいなど色々と面倒を見てもらえるんですか? 

 

吉田 基本的に、漁が休みの2ヶ月は、ほとんど実家に帰りますね。都会の暮らしと、大海原の大自然という両極端な暮らしをさせた方が、漁師の定着に結びつくかなと思います。気仙沼にいる間は、ホテル住まいですね。

 

育美 もちろん自分にうまくマッチして漁師さんを続けられる方もいると思いますが、気軽な気持ちで挑戦できるものですか?

 

吉田 とにかく1年は戻らないという、ある種の覚悟は必要。ただ、覚悟を決めて第一歩を踏み出させるのは私たちの仕事。だから、こっちも本気で、真剣に取り組まないと人は動かない。逆に言うと、真剣に取り組めば来てくれます。

 

育美 吉田さんの熱意が、担い手の心を動かすんですね。

 

123勝栄丸の若手船員と出港前に記念撮影

 

吉田 時化の海など過酷な状況の中で、漁師はお金稼ぐためのほかの意味を見出さないと続けてやれる仕事じゃない。だから、漁師のカッコよさ、その存在意義をブログやSNS、動画でアピールするようにしています。

世の中には、親にすら頼れないなど、いろんな家庭環境の子がいます。そういう子たちが、気仙沼ドリームじゃないけど、漁師になることで、自分で財をなし、家庭を持って豊かに暮らしていける、人生の転換期になればいいなと思っています。

 

育美 素晴らしいですね。

 

吉田 5年間、船に乗って辞めたけど、3年ぶりに戻ってきた子がいたんです。他の場所では当たり前ですが「町を声をかけてくれることがなかったけど、気仙沼は港を歩いているだけで声をかけてくれる。目上の人が声をかけ、自分を頼ってくれる。こんな町、ないっすよ」って。そう言ってくれる子がいると、自分が続けていく意味にもなる。みんなで漁師を応援していこうと発信しています。

 

育美 本当に夢があるお仕事!吉田さんは若い人を見てこられて、時代の変化を感じますか?

 

吉田 昔は稼げる仕事だったのが、漁師に求めていることが、今は生き様になった。昔、男の甲斐性と言われた「飲む、打つ、買う」に、今の子達はまったく興味がない。遠洋の出航前には家族旅行に連れて行ってあげて、しっかり親孝行もしてる。以前の、男らしいというところは持ちながら、お金の使い方がキレイになりました。財テクもしっかりしています(笑)。

 

育美 先ほど、すべて夢が叶っているとおっしゃっていましたが、今はその夢を募集中ですね。

 

吉田 自分が排出した若い船頭と機関長、船員で一隻できたら、そこを早く実現したい! それができると、後につながっていくと思います!

漁業は気仙沼の基幹産業なので、経済の根幹にある人を大事にしていかないと。特に、気仙沼の近海まぐろ漁船の船型は、気仙沼特有なんです。この夏、近海マグロ船のが1カ月の操業体験が始まりましたが、全国初の試み。気仙沼から近海まぐろ漁船がなくなることは、この文化自体が消滅するということ。そういう思いで、やっています。楽しみです!

 

育美 初の試みとなる実習船の成果が、次につながることを願っています。

 

 

撮影/スタジオアート

構成・文/藤川典良

 


⚓️NEWS⚓️

いざ出航!近海まぐろ延縄操業体験 実習船

遠洋船に比べ、船が小さく、乗組員も少ない近海マグロ船は、かなりハードな仕事。

これまでなかなか定着に結び付きませんでしたが、この夏、『近海まぐろ延縄漁船”操業体験”プロジェクト』が始動しました!小笠原沖で約1ヶ月の航海で、15回程度の操業は、全国初の試みです!

プロジェクト主体の船主は気仙沼かなえ漁業㈱で、一企業単独のプロジェクト。6月20日11時、気仙沼かなえ漁業の「はやま丸」が小笠原へ向け出航! 気仙沼には、無事7月9日に帰港しました。

この初の試みが次につながることを期待しています。

 

宮城県気仙沼市にある宮城県北部船主協会付属船員職業紹介所(国土交通省東北運輸局認可)の公式ブログ