気仙沼は、水産にまつわるさまざまな職種の方の海への愛情とおもてなしの気持ちで、水産業を気仙沼の基幹産業へと盛り上げてきました。でも、それぞれどんなお仕事をしているのか、実のところ育美もよく分かっていません。廻船問屋の小野健商店さんに続き、水産事業や観光事業、物販事業、飲食事業など幅広く手掛ける阿部長商店 社長の阿部泰浩さんに伺いました。
◾️仲買人の仕事
育美 毎年、夏に開催される気仙沼かつお祭りは、すごい盛り上がりですね。2024年は、かつおがすごく獲れましたから、今年もぜひたくさん獲れてほしいですね。特に今年は、かつお溜め釣り(一本釣り)漁伝来350年ということで、町も活気付けばいいなと思っています。
阿部 かつおの水揚げは、生鮮と冷凍あわせて年平均で2万トン前後。去年は脂が乗って品質の良いかつおが3万トン以上獲れましたから、我々も非常に助かりました。
育美 阿部長さんは、水産からホテルなどの観光施設、飲食、物販まで本当に幅広く事業展開されています。魚市場でお魚を目利きし、買い付けもされているんですよね?
阿部 東京の豊洲など都市部の中央卸売市場に対して、気仙沼市魚市場は産地市場と言います。漁船が獲ったものが産地市場に水揚げされて、その市場で仲買人(買受人)が魚の良し悪しを目利きし、海産物を競り落とします。そして、鮮魚で流通するものと加工に回すものに選別しています。
育美さんも昔は、魚を市場の中でスチロール箱に入れて、氷屋さんが氷をかけて、トラックに積んで出荷する作業を見たことあるかな?今は、衛生上の問題で市場内では荷造りができません。仕入れた魚を各自の工場に持ち帰り、自社工場内で計量して、箱詰めして出荷する流れが、基本的な私たちの仕事です。そこから派生して、冷凍や加工、飲食店など海産物を提供するサービスも行っています。
育美 長年、水産に関わってこられて、時代とともに一番の大きな変化って何ですか?
阿部 やはり、漁獲量の減少です。私は昭和62年に気仙沼に帰ってきたんですけど、当時は気仙沼で300億円以上の水揚げがあって、数量では10万トンを超える水揚げ量で、今はだいたい6万トンから7万トン。それだけ漁獲が減少しているんですよ。
原因は漁船が減ったり、魚そのものが減ったり、海洋環境の変化もあったり……。海が変わったので、私たちも大きく変えていかないと、このまま魚屋が維持できないと考えるようになりました。
育美 私が思っている以上に水産に関わる方々はご苦労されているのですね。最近は、お魚屋さんやスーパーでも、見慣れない魚が増えてきているなぁ‥‥と感じています。
阿部 海のことは我々も予測できない。最近だと、イワシはたくさん獲れるんだけど小型の魚ばっかり。研究者の方に聞くと、太らないプランクトン、要は餌が悪くて食べても太らないんだそうです。
三陸でも伊勢海老が獲れたり、瀬戸内海や九州で獲れていた太刀魚が三陸でも獲れたり、今は向こうで獲れなくなってきたそうですね。
育美 去年、友達から太刀魚いただいたんですけど、本当にこの辺では珍しいのでビックリしました。
阿部 従来、獲れていた魚が獲れなくなる、獲れなかった魚が急に獲れだすので、私たち魚屋も対応していかないといけない。食文化が大きく違うので、南の魚がどんどん獲れ出してくると、我々が学ぶことも増えていきます。
■生鮮 VS たたき
育美 気仙沼では、かつおは生で食べることが圧倒的に多いですよね。でも、全国的にかつおは、たたきのイメージなのかな?
阿部 気仙沼の人は気仙沼が生鮮かつおの水揚げ日本一とわかっているけど、東京でかつおが獲れる港は?って聞くと、高知や枕崎、焼津が気仙沼よりも先に名前が出てくるんです。気仙沼でもかつおをたたきで食べるのは、震災前後あたりからかな。我々も工場でかつおのたたきを作るようになって、まだ十数年ぐらいです。
かつおといえば気仙沼って最初に言ってもらえるようにしたいと思います。そのきっかけが350年の今年になるといいですね。
育美 戻りかつおは脂が乗ってて、それが向かないとか聞いたことがあります。
阿部 こっちの人はね、生鮮にプライドがあるから。例えば高知のかつおのたたきにしても、南方の青臭いかつおはたたきにして、ニンニクとか生姜とか強烈な薬味と一緒じゃないと食えない魚だとか昔は言ってました。気仙沼の魚は脂が乗った戻りかつおだから、マグロと同じように薬味もワサビで食うんだよって、良さをそう伝えてたんだけど、でもやっぱりたたきにすると美味しい(笑)。
育美 もちろん生も美味しいけど、たたきはたたきの良さがあって、私も大好きです。
阿部 サッパリしてね。やっぱり脂が乗り過ぎると飽きるから、たたきにしてポン酢でスライスした玉ねぎと一緒に。そういう食べ方を教わった。令和4年(2022)に、「第3回全国カツオまつりサミット in 気仙沼」が開催された時に、高知県中土佐町の町長さんが来られて、たたきの作り方を実演してくれました。みなさん行列を作るような人気を見ると、かつおはたたきなのかなって思いましたね。
かつおの産地は気仙沼以外にもあるわけだから、良いところは取り入れながら、少しずつ変化させていこうと思います。
■かつおを食べ尽くす
育美 阿部長さんは観光業もされているのでお客さんに楽しんでもらうために何か考えていらっしゃいますか?
阿部 気仙沼市内でも従来だと、生鮮かつおの時期だけかつおメニューを作って提供するけど、オフシーズンは、かつお料理がない。通常、気仙沼に水揚げする船は中型船で、獲ってすぐに鮮魚で水揚げしています。そこで、1年を通じてかつおを提供できるように、地元のかつお一本釣り船『亀洋丸』が獲った冷凍かつおを活用し、生鮮の時期が終わる冬にも提供できる取り組みが昨冬ぐらいから始まりました。釣ったかつおは船内ですぐ急速冷凍するので、脂がのった戻りかつおの品質のいい時期のものになので、非常に人気が高くなるはず。まずは、それを地元で提供してもらうことを初めています。
育美 いつ気仙沼に来ても、オールシーズンかつおを食べられるっていいですね。
阿部 その冷凍かつおを使ったレアカツを作ってね。中はもう真っ赤な状態で、周りだけは衣をつけたカツで食べると美味しい。徐々にそんなメニューを提供する店も出てきています。
そして、かつおを食べ尽くす。我々、たたきを作るときに捌いた時の心臓を以前は捨てていました。それは刺身になる魚の心臓ですから、加工の仕方によっては珍味になったり、付加価値を高めることもできるんじゃないかと。かつおも刺身で食うのはせいぜい40%ぐらい。60%は食べてない。それを食べるように変えていかないとかつおに悪い(笑)。
育美日本酒に合いそう。
阿部 ここで獲れるかつおは、脂が乗っていて焼いても固くならない。地元で加工して竜田揚げやカツにしたり、ハラスもできるだけ食材として活用したり、頭を使ってラーメンスープにしたり、捨てないところを挑戦したいですね。
いろんな見せ方を提供していかないと。まだまだやれることはいっぱいあります。
左:かつお竜田揚げ 右:冷やしかつおラーメン
育美 観光やお仕事で気仙沼に来た方が気仙沼の港にたくさん漁船が並んでいるのは圧巻らしいですからね。
阿部 我々には見慣れた当たり前の風景でも、観光で来られた方が見ると、並んでいる船も観光資源なんだって思います。外の人から教えられることも多いから、まだまだ知らないところで気仙沼の良さってあるかもしれませんね。
【阿部長商店 阿部社長おすすめの食べ方】
「僕は、やっぱりワサビで食べるのが気仙沼のかつお。ニンニクと生姜だと気仙沼の生鮮かつおの良さを奪っちゃう。ワサビで食うと、生鮮のおいしさがより際立ちます」
阿部長商店: 1961年、鮮魚仲買業として創業。1968年、(株)阿部長商店設立。ABECHOグループとして、水産事業・観光事業・物販事業・飲食事業・不動産事業など幅広く手掛ける。
料理写真提供/阿部長商店
協力/気仙沼市産業部水産課
撮影/スタジオアート
構成・文/藤川典良
【 阿部長ウィーク イベント情報】
とれどき祭りin気仙沼2025「かつお海鮮」
ABECHOグループでは、毎月旬の魚介類を楽しめる食のイベント「とれどき祭り in 気仙沼」を開催しています。
季節ごとに美味しい海鮮をお届けしているので、ぜひご注目ください!
この時期は「かつお海鮮」を開催!
◆開催期間:2025年7月12日(土)~7月27日(日)
◆開催店舗:以下の店舗
《メニュー提供》
・和食処 海舟 @気仙沼プラザホテル
・和食処 鮹 @サンマリン気仙沼ホテル観洋
・リアスキッチン @気仙沼海の市1F
・気仙沼いちば寿司 @気仙沼海の市2F
・港町レストラン鮮 @気仙沼お魚いちば
《同時開催スタンプラリー対象店舗》
・上記5店舗
・気仙沼海の市 阿部長
・気仙沼お魚いちば
※当日の仕入れの状況により、限定メニューをご提供できなくなる場合がございます。また、水揚げ状況により、メニュー内容が予期なく変更される場合がございます。ご了承ください。
第9回 気仙沼かつお祭り2025
「かつお溜め釣り漁伝来350年」で、例年よりさらに活気づく気仙沼で、今年も「気仙沼かつお祭り」が開催中!2025年7月1日(火)〜7月31日(木)の期間、市内各所で、かつお三昧。
かつおを買って、かつおが当たるキャンペーンもありますよ!!!
急告 7月19日(土)
【かつお わら焼き お振舞】
11:00/14:00の2回 海の市西側駐車場 各先着200名様
■気仙沼の観光情報はこちら!■